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前十字靭帯再建術後リハビリテーションにおける大腿四頭筋の筋力と膝の生体力学的対称性の継続的な改善:6ヶ月の活動復帰基準を再考する時期が来たか

2018.08.30 | 著者:
みなさま いかがお過ごしでしょうか。さて、先月から毎月30日にJATO研究教育委員からアスレティックトレーナーにとって関心の高いアカデミックな情報を配信し、共有してまいります。

第2回目の今回は、JATO研究・教育委員会 岸本康平氏にスポーツ選手の膝の前十字靭帯再建術に関する最新の論文をご紹介いただきました。

ぜひ、ご一読ください。

 

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Curran, M. T., et al. (2018). "Continued Improvements in Quadriceps Strength and Biomechanical Symmetry of the Knee After Postoperative Anterior Cruciate Ligament Reconstruction Rehabilitation: Is It Time to Reconsider the 6-Month Return-to-Activity Criteria?" J Athl Train 53(6): 535-544.

 

[原稿]

今回は前十字靭帯再建術に関する論文をご紹介します。この研究では、前十字靭帯再建術を受けた20名(女性12名、男性8名;平均年齢21.40±5.60歳)を対象に、競技復帰時と術後12ヶ月以上たった時点での膝伸展筋力、片足ジャンプ時の生体力学的機能評価、自己申告制機能評価を比較しています。結果として、競技復帰時においても、筋力、生体力学的機能ともに術側と健側には20%以上の非対称性があり、これらの非対称性は術後12ヶ月以上までで改善していきましたが、それでもなお多くの患者で10%以上の非対称性が残存しました。著者は、アメリカで標準的な6ヶ月の復帰基準のみにとらわれることなく、筋力や機能の非対称性を含めた多角的評価が必要であると述べています。また、現状のリハビリテーションパラダイムを見直し、研究に基づいたより厳密な復帰基準の設定が必要であると提言しています。このような非対称性の残存は再受傷や反対側の受傷につながることもあり、患者にとって大変不利益な結果になります。著者が提言した研究に基づく多角的な機能評価も大切ですが、受傷から復帰までに患者に最も長く関わるアスレティックトレーナーとして、数字に表れない評価も大切にし、万全な状態で復帰に繋げることが我々の存在意義ではないでしょうか。

 

[Abstract]

【目的】前十字靭帯再建術(ACLR)を受けた患者の競技復帰(RTA)時と術後12ヶ月以上での筋力と生体力学的機能を比較すること【対象】前十字靭帯再建術を受け競技復帰が出来た患者20名(女性12名、男性8名;平均年齢21.40±5.60歳)【方法】大腿四頭筋筋力の評価として、等尺性および等張性膝伸展筋力を測定した。生体力学的機能評価として、片足前方ジャンプ中の、矢状面での膝関節回旋の対称性、矢状面での膝関節回旋の変化、膝関節伸展モーメント、膝関節伸展モーメントの変化を測定した。また、International Documentation Committee Subjective Knee Evaluation Formを用いた自己申告制機能評価を行なった。

【結果】競技復帰時において、筋力、生体力学的機能ともに、80%以下の対称性を示した。等尺性筋力、等張性筋力、矢状面での膝関節回旋の変化、膝関節伸展モーメント、膝関節伸展モーメントの変化、自己申告制機能評価において、競技復帰時から術後12ヶ月以上で、改善がみられたが、復帰推奨基準(≧90%)を満たしたのはたった3例であった。【結論】前十字靭帯再建術後患者において、競技復帰時でも筋力面、機能面ともに非対称性を示した。また、これらの非対称性は、自己申告制機能評価とともに競技復帰後に改善がみられたが、術後12ヶ月以上においても、10%以上の非対称性が残存していた。

 

 

JATO研究・教育委員会 岸本康平