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アクティブ・ラーニングによる認知能力の開発:ヘルスケア専門職教育を対象としたシステマティックレビュー

2022.06.21 | 著者:


序文

先行研究から、アクティブ・ラーニングは学習者が学習リソースを選択できる状況で最も効果的であること、レベルの高い学習者では、アクティブ・ラーニングからより多くの利益を得る可能性があることが明らかとなっており、ヘルスケア領域では、専門分野毎に予想される利益が異なることも指摘されている。しかしながら、例えば批判的思考や問題解決能力などにつながる高次の認知能力向上に対するアクティブ・ラーニング導入の有効性については明らかではない。

 

目的

本システマティックレビューの目的は、ヘルスケア専門職の学習者における記憶、理解、応用力を含む低次の認知能力および分析・評価、創造力を含む高次の認知能力を高める上で、アクティブラーニングはパッシブ・ラーニングと比較して有効であるかを明らかにすることであった。

 

方法

このシステマティックレビューは、Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analysesのガイドラインに従って実施された。2007年から2017年の間に英語で出版され、医療専門分野の学習者に対するアクティブ・ラーニングの効果を調査したピアレビュー論文を対象とした。4つのデータベース(CINAHL, SPORTDiscus, Educational Resources Information Center [ERIC], PubMed)の包括的な電子検索を行った。“millennial AND health education”, “active learning AND knowledge retention”, “flipped classroom AND learning outcomes”, “problem-based learning AND learning outcomes”, “problem based learning AND student confidence”, “active learning AND critical thinking”, “higher order thinking AND active learning”で検索し、採用された論文を研究課題に従って分類した。

 

結果

4つのデータベースで収集された396論文について、研究タイトルと抄録および論文全文について、本研究で設定した採択/除外基準によるスクリーニングを実施し、最終的に154論文を採択した。

154論文中、85論文(55%)が、医療専門職教育にアクティブ・ラーニング導入後の、

学習者の記憶、理解力、応用力(低次の認知能力)の変化を報告していた。結果、85論文中61論文において(72%)、アクティブ・ラーニング導入による低次認知課題の向上を示していた。

154論文中69論文で、医療専門職教育にアクティブ・ラーニング導入後の、学習者の分析・評価力、創造力(高次の認知能力)の変化を報告していた。結果、69件論文中58論文(84%)は、これらの高次認知能力の向上にアクティブラーニングの手法を用いることを支持していた。

 

結論

アクティブラーニングの導入は、低次の認知能力および高次の認知能力の向上に対して、パッシブラーニングと同等かそれ以上に有効である。(推奨度:A)

 

本システマティックレビューでは、低次の認知能力の向上にはLTD(Learning Through Discussion)やシンク・ペア・シェアなどの活動と講義との組み合わせを推奨しています。一方、よりレベルの高い学習者には、講義の代わりにジグソー法やロールプレイ、ピアレビューなどより複雑なアクティブ・ラーニングの手法を導入することで、学習者の批判的思考や問題解決能力を促進することができることも指摘しています。本邦では、アスレティックトレーナー(AT)教育におけるアクティブ・ラーニング導入の有効性についての議論は十分ではありません。本論文を読むことで、本邦のAT教育におけるアクティブ・ラーニングを含めた新しい手法導入の議論が深まることを期待します。

 

Reference

Harris, N., & Bacon, C. E. W. (2019). Developing cognitive skills through active learning: A systematic review of health care professions. Athletic Training Education Journal, 14(2), 135-148.

 

注釈

  1. LTD:グループにおけるディスカッションを通して学習する方法

  2. シンク・ペア・シェア:課題に対して、まず学習者自身が回答を考え(Think)、次いでパートナーと議論し、最後にその成果を全体で共有させる学習法

  3. ジグソー法: 設定された課題やテーマについて、グループ内で課題を細分化した後、各担当により分担して調査させ、それらの成果をグループ内で共有させる学習法。

  4. ロールプレイ:実際に起こりうる場面とそこに関わる配役を設定し、各学習者に配役を演じさせる学習法

  5. ピアレビュー:学習成果を、学習者間で相互に評価させる学習法