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【Season2 vol.1】プロサッカー選手における一般的なスクリーニングテストの非対称性閾値(asymmetry thresholds)と、それらのジャンプパフォーマンスへの影響

2021.04.19 | 著者:
サッカーでは、左右非対称な動作を含むスキルが多く用いられ、これらの非対称な動きを続けることによって、筋力や可動域などに左右差が生じることがしばしばみられます。非対称性は障害発生のリスク因子となることが報告されていますが、左右差があっても怪我をしないアスリートもいます。そこで、どの程度までの左右差が正常範囲内で、どこからが異常なのかをこの研究では検討しています。
目的
一般的に使用されているスクリーニングテストにおいて、標準となる非対称性の値を確立し、それらとジャンプパフォーマンスの関係を調査すること
方法
健常男性プロサッカー選手203名(年齢24.4±4.7歳、身長175.5±6.6cm、体重71.5±9.3kg)において、2017−2018シーズンのシーズン前もしくはシーズン初期に以下のスクリーニングを行った。
可動域・柔軟性:股関節開排(背臥位外旋)・腹臥位内旋、ハムストリング(passive knee-extension test)、足関節背屈
筋力:膝関節屈曲・伸展筋力(求心性・遠心性)、Q/H比、ノルディックハムストリング中の最大発揮筋力、股関節内転・外転筋力(break-testによる遠心性筋力)
ジャンプパフォーマンス:片脚カウンタームーブメントジャンプ(ジャンプ高、最大推進力)、両脚カウンタームーブメントジャンプ(ジャンプ高、最大推進力)、片足10秒ホップテスト(平均ジャンプ高、反応筋力値=滞空時間/設置時間)
各テストにおいて、非対称性の程度を四分位数(quartile)で表し、Q1〜Q4の4段階に評価(Q4が最も非対称性が大きい)した上で、可動域・柔軟性および筋力の非対称性とジャンプパフォーマンスの関連性が検討された。また、ポジション別における非対称性の違いについても検討された。
結果
テストによって非対称性には大きなばらつきがあった(範囲= 5.2%-14.5%)。フォワードの選手は大腿四頭筋の求心性筋力と股関節外転筋の遠心性筋力において、他のポジションよりも大きな非対称性を示した。ハムストリングと大腿四頭筋の複合スコアにおける非対称性がQ4に含まれる選手は、Q1〜Q3の選手と比べて片足カウンタームーブメントジャンプおよび片足10秒ホップテストにおけるジャンプ高が低かった。各種可動域、股関節内転・外転筋力の非対称性については、片脚ジャンプパフォーマンスとの関連性が示されなかった。また、どの非対称性の測定項目でも、両脚ジャンプパフォーマンスとの関連性が示されなかった。
結論
今回の研究では、単独の測定項目における非対称性の閾値は存在せず、測定結果は、課題や対象によって異なることが示された。ハムストリングと大腿四頭筋における筋力の非対称性が大きいことが、片脚ジャンプパフォーマンスに影響を与える可能性が示された。一方で、可動域・柔軟性と股関節筋力はジャンプパフォーマンスに影響を与えないことが示された。

私が考えるこの研究結果の意義は、「筋力や可動域・柔軟性に非対称性が存在しても、パフォーマンスには現れづらい」ということです。非対称性があったとしても、選手は様々な代償動作でそれをカバーできてしまうため、見過ごされてしまうことが多いです。それにより、気づかないうちに代償している部位にストレスが蓄積し、障害発生につながるケースも少なくないのではないでしょうか。障害予防のためには、適切なスクリーニングを行うことにより、パフォーマンスには現れない非対称性を発見することが重要だと感じた論文でした。

出典:Read PJ, McAuliffe S, et al. Asymmetry Thresholds for Common Screening Tests and Their Effects on Jump Performance in Professional Soccer Players. J Athl Train. 2021; 56(1):46-53

文責:岸本康平