スポーツによる脳振盪では、眩暈、平衡感覚の乱れ、視覚異常など、前庭と眼球運動に関連する症状がよく見られます。Vestibular/Ocular-Motor Screening （VOMS）は、これらの症状を特別な器具を必要とせず迅速に評価できるツールで、脳振盪の識別、予後、管理において一貫した有用性を示しています。脳振盪を受傷した選手を評価するための標準的なツールであるSports Concussion Assessment Tool 3（SCAT3）をはじめとする、従来の検査法との併用や使い分けの有効性について理解することが、より的確な診断や治療に繋がります。本研究では、大規模なサンプルを用いた脳振盪急性期におけるVOMSとSCAT3による評価の検証を行いました。

目的
全米大学体育協会と国防総省が共同で実施しているCARE（Concussion Assessment, Research and Education）コンソーシアムに参加している学生アスリートを対象に、VOMSとSCAT3を構成する各ツールの個別での使用と組み合わせた際の有効性を検証推論すること。


方法
調査期間中に受傷した388名の学生アスリートの419件の脳振盪を対象に、プレシーズンおよび受傷後急性期の脳振盪評価を分析した。分析の対象としたツールは、VOMS、Balance Error Scoring System（BESS）、Standardized Assessment of Concussion（SAC）、SCAT3症状評価スコアであった。


結果
VOMSの総スコアとSCAT3の症状評価スコアは、脳振盪急性期に有意な増加を示したが、BESSの変化は臨床的に有意ではなかった。VOMSをSCAT3に組み込むことで、全体的な診断能力が4.4%向上し、SCAT3単独と比較して感度が9%、特異度が3％向上した。


結論
本研究の結果は、前庭系と眼球運動系が脳振盪に関連していることと、VOMSの有用性を明らかにした。SCAT3にVOMSを追加することで、より多くの脳振盪を早期に特定することができ、脳振盪の評価と診断率を向上させることができる。VOMSの使用は、脳振盪の評価と管理にプラスの影響を与え、最終的にはこの傷害の転帰を改善する可能性があるため、医療従事者は脳振盪評価ツールへのVOMSの追加を検討する必要がある。

本論文が推奨したVOMSは、特別な器具の購入も必要もなく、所要時間も5−7分間で済むため、幅広いスポーツ現場で導入が可能なツールだと思います。競技中もしくは競技後の迅速な評価に有用であり、受傷後のリハビリテーションのプランを作る上でのデータとしても活用でき、フォローアップの検査では回復の経過を確認するために役に立ちます。また、ベースラインテストで異常を発見した際には、その項目の改善をする事で将来の怪我の予防やパフォーマンスの向上にも繋がります。より詳細なVOMSの使用方法はこちらの論文のSupplementary Material（Appendix 1と２）をご覧ください。

Mucha A, Collins MW, Elbin RJ, et al. A Brief Vestibular/Ocular Motor Screening (VOMS) assessment to evaluate concussions: preliminary findings. Am J Sports Med. 2014;42(10):2479-2486. doi:10.1177/0363546514543775

出典：Ferris LM, Kontos AP, Eagle SR, et al. Predictive Accuracy of the Sport Concussion Assessment Tool 3 and Vestibular/Ocular-Motor Screening, Individually and In Combination: A National Collegiate Athletic Association-Department of Defense Concussion Assessment, Research and Education Consortium Analysis. Am J Sports Med. 2021;49(4):1040-1048. doi:10.1177/0363546520988098

文責：高萩真弘