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柔道における重症頭頚部外傷について

2018.10.31 | 著者:
第4回目となります今回は、越田専太郎先生(了徳寺大学)に研究をご紹介いただきました。ぜひ、ご一読ください。
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柔道における重症頭頚部外傷について
出典:Kamitani T et al. Catastrophic head and neck injuries in judo players in Japan from 2003 to 2010. Am J Sports Med. 2013;41(8):1915-21.(2003年から2010年の間に日本の柔道選手に生じた重篤な頭頚部外傷)


本研究は、全日本柔道連盟の「障害補償・見舞金制度*」に報告された柔道外傷のデータを基に、柔道で生じた重篤な頭頚部損傷(頭部30件、頚部19件)について、受傷機転、受傷時年齢、柔道経験年数、診断名、予後について分析した記述疫学研究です。
本研究では、柔道における重篤な頭頚部損傷に関する以下の非常に特徴的な傾向が示されました。
頭部外傷では、
・柔道経験の浅い(3年以下)選手が大外刈で投げられることでの受傷が多い
・20歳未満の若い柔道選手での受傷が多い
頚部外傷では、
・柔道経験3年以上の選手が、内股などの技を仕掛けた際の受傷が多い(68%)
・年齢に特徴的な傾向は認められない
筆者らは、上記の結果を受けて、
頭部外傷の予防対策として
1)受け身動作の習得の徹底や
2)安全ガイドラインについての知識を有する柔道指導者養成システムの確立
を挙げています。
一方、頚部外傷については、ルールによる危険動作の罰則を徹底すること(内股などで頭から突っ込んで投げる行為は反則負)を挙げています。
2015年の公益財団法人全日本柔道連盟の報告によると、2003年から2014年までの間に重症頭部外傷44件、頚部外傷32件の発生が確認されています(http://www.judo.or.jp/wp-conte…/…/2015/11/anzenshido2015.pdf)。2012年度より中学校保健体育において武道が必修となり、柔道による重症頭頚部外傷の増大の危険性が懸念されていました。しかしながら、これまでに頭部外傷発生が増加傾向にあるとの報告はなされていません。但し、今後も予防の取り組みの継続が必要でしょう。
柔道に関わらず、スポーツで起こる重症事故(死亡事故含む)は決して起こしてはなりません。重症頭頚部外傷予防に取り組む際、アスレティックトレーナーは、受傷状況の競技特異性についても理解を深めておく必要があるでしょう。

*障害補償・見舞金制度とは、2003年に全日本柔道連盟が柔道による怪我や事故の受傷者とその家 族の経済的負担を軽減するために定めた制度です。(https://judo-member.jp/…/regulatio…/mimaikin_sikyu_kitei.pdf

JATO研究・教育委員会 越田専太郎