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一定の張力で行なった静的ストレッチによる、受動的スティフネスと最大筋力、瞬発的筋力への影響

2019.08.30 | 著者:

「一定の張力で行なった静的ストレッチによる、受動的スティフネスと最大筋力、瞬発的筋力への影響」


概要:今回は、最近議論になることが多いスタティックストレッチ(静的ストレッチ)の可動域改善効果と発揮筋力への影響について、ストレッチ方法と時間、回数に着目して実験を行なった論文をご紹介します。この論文の特徴として、①角度を一定に保ったストレッチではなく、張力を一定に保ったストレッチを行なったこと、②比較的短時間、低頻度でストレッチを行なったこと、③先行研究では被験者が若年男性ばかりであるのに対して、本研究の被験者は若年女性であることを挙げています。


目的:若年女性において、一定張力下で行なった、短時間・低頻度の受動的Straight Leg Raise (SLR)ストレッチによる受動的スティフネスの経時的反応と、最大筋力・瞬発的筋力への影響を調査すること。


方法:対象は若年女性11名(平均年齢24±4歳)。ストレッチ介入前に受動的SLRを痛みが出ない範囲まで行いますが、この時に被験者の踵と検者の手の間に圧力を計測する機器を当て、SLR時の抵抗を測定し、これを受動的スティフネスとします。


その後に、静的SLRストレッチを、同じ機器を用いて抵抗が一定(=一定の張力)になる様に調整しながら、徒手的に15秒4セット(セット間15秒)行いました。


また、ストレッチ介入前後に等尺性での股関節伸展筋力測定を行い、最大筋力と力の立ち上がり(=瞬発的筋力)を記録しました。


結果と考察:15秒のストレッチを1セット行なった後では受動的スティフネスは変化ありませんでしたが、2セット行なった後に有意に減少しました。しかし、3セット、4セット行なってもそれ以上の有意な減少はみられませんでした。また、15秒4セット行なった後でも、股関節伸展筋の最大筋力・瞬発的筋力に変化はありませんでした。先行研究では、合計4分間以上の長時間ストレッチを行なった場合、今回の結果よりも柔軟性は向上していたが、同時に最大筋力や瞬発的筋力などの低下もみられたことから、張力を一定に保った静的ストレッチは15秒2セットで十分であろうと考察しています。


静的ストレッチによって筋力低下が起こるという論文が発表されて以降、静的ストレッチを行うタイミング・秒数・回数に関して皆様の中でも議論が行われていると思いますが、今回の論文でまた新たなヒントが得られたかと思います。ただ、股関節伸展には殿筋群も関わることから、ストレッチによるハムストリング発揮筋力への影響が過小評価されている可能性も考えなければなりません。また、対象が女性であるため、単純に先行研究と比較することができないことを考慮する必要があります。静的ストレッチに関して、一定の見解が出るにはまだエビデンスが足りませんが、今回紹介させていただいた内容も皆様が臨床で静的ストレッチを行う際の判断材料の一つとしていただければと思います。


Reported by 岸本康平(順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ医学研究室)


【参考文献】


Palmer TB,  Thiele RM. Passive Stiffness and Maximal and Explosive Strength Responses After an Acute Bout of Constant-Tension Stretching. J Athl Train. 2019; 54(5): 519-526